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2004.10.25

『風雲児たち』みなもと太郎

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歴史を題材、背景にした文芸は数多い。
私は「文芸」のなかに漫画・コミックを当然入れるが、歴史を扱った漫画という範疇では、みなもと太郎『風雲児たち』が圧倒的におもしろい。今までに出た三十数巻(いろいろな版があるが私は潮出版社のもの)は何度読み返したかわからない。何回読んでもげらげら笑い、勇気づけられ、そして少し涙する。

1947年京都生まれの彼は、70年代初頭のナンセンスギャグマンガ『ホモホモセブン』でブレイク。いしかわじゅんは「計算しつくされたイイカゲンさ」と評し、復刊された『レ・ミゼラブル』に糸井重里は「ふざけた本気が胸を撃つ」とオビに書いた。

79年、雑誌『月刊少年ワールド』の依頼に応じて始めた連載の当初のタイトルは「幕末チャンバラ伝・風雲児たち」。だからもちろん「幕末」をテーマに描く「つもりだった」。
ところがいろいろ調べ、構想を練っているうちに、幕末を描くのだったらその遠因となっている「関ヶ原の戦い」に遡らねばならないと考える。「なんのために関ヶ原にきたのかまったくわからない藩が三つある。すなわち長州、薩摩、土佐の三国であった」。これらの国の江戸幕府との300年の伏流を捉えなければ、幕末で活躍する風雲児たち(長州の吉田松陰・高杉晋作・久坂玄瑞・桂小五郎・大村益次郎・伊藤博文、薩摩の西郷隆盛・大久保利通・桐野利秋、土佐の坂本竜馬・武市半平太・岡田以蔵・中岡慎太郎・板垣退助)らは描けないではないか。そして倒幕の薩摩・長州・土佐を描くなら佐幕方の会津にだって歴史と人材と言い分はあるだろう…という具合で、連載誌は途中で『コミックトム』に替わったが、毎号編集者に「早く幕末に行け!」と作者が叱咤される絵がお馴染みの笑いを誘いながらなかなか幕末までたどりつかない。20年描き続けて竜馬がようやく18歳になったところ、というペースだ(すでに登場人物は抜粋しただけで300人を越える)。

私の理解したこの江戸〜幕末を背景とした大河漫画のテーマは「外を知って己を知る」ということだ。必然的に「外を知ろうとした」平賀源内、前野良沢、最上徳内、伊能忠敬、林子平、大黒屋光太夫、高野長英、渡辺崋山、シーボルトなどの先駆者たちがクローズアップされ、江戸の世が単なる太平ではなく、世界との関係のなかで次の時代への蠢動をはらんだ緊張したものとして生き生きと描かれる。

そして、みなもとの視点は為政者・権力者中心のNHK大河ドラマや偉人たちの物語をつぐむことではない。
たとえばシーボルトが残した娘イネが異邦人として医学をめざす姿と漂流という偶然から同じく異邦人として運命を切り開いたジョン・万次郎に一巻をささげている。
「素人に耐えられる状況ではない…であるが故に、この二人は、なるたけ明るい性格に描きたい。史実を歪めてまで描くつもりはない。実際どこかに底抜けの明るさをもっていなければ、環境に押しつぶされ、挫折するはずだと思えるからである。しかし、わずか15〜16歳で第一歩を踏み出した二人は、それぞれ人生を立派に切り拓き天寿を全うして亡くなった。見事である、と思う…この二人がもし出会えることがあれば、夜通し語り合わせてあげたい。互いの苦労がわかりあえる、多分、数少ない”仲間”だと思うから」(2人はともに同じ1827年生まれ)
もっと知られていない市井の人の運命も情感豊かにポッと出てくる。秀忠の子、後の保科正之を宿す娘を幽閉の寺へ送り出す父、浪人神尾某の章は本筋には関係ないようにみえるが、そのユーモラスな表現に笑いながら私はいつも目頭が熱くなる。

一応の完結として刊行された潮出版社『風雲児たち』第30巻が出版されたのは1999年。描き始めてから20年だ。
そして25年目の今、実はまだ終わらせず描きついでいる。みなもと太郎はもうこれをライフワークとするしかない。私もつきあいます。

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コメント

kawaさん、はじめまして。
菊池さんは私の勤める大学のデザイン学科で昨年まで長らく教えていただきました。専門のエディトリアルデザイン・アートディレクションはもちろん、誠実な人柄と学生への真摯な指導にいつも感服していました。

『風雲児たち』ぜひお読みになってください。
歴史のなかを(与えられた環境のなかで)せいいっぱい生きていた先人たちの息吹が感じられます。

私もみなもと太郎と同じ1947年生まれなのですが、50代半ばを過ぎて、若い人々に少しでもいろいろ考えるきっかけを提供したい、という想いがあらためて強くなりました。
今のところ授業で話すようなこと以外のことが多いのですが、だんだん拡げていこうと思っています。
おつきあいくださり、ご意見をいただければ幸いです。

投稿: 高味壽雄 | 2004.10.29 07:07

 はじめまして。菊池美範さんのblogからやってきましたkawaといいます。みなもと太郎さんの『風雲児たち』の話にはあきれました。いやあ、こんな人がいるとは知りませんでしたねえ。ぜひ私も手を伸ばしてみようと決めました。
 『風雲児たち』の話だけでなくこのブログで繰り広げられる話には、読んでためになる内容の深さもさることながら、読んで気持ちがよくなりました。なぜでしょうかねえ。伝える人の“思い”を感じられたからなのかもしれません。まだよく分かりませんが、私も話を丁寧に展開してみたくなりました。

投稿: kawa | 2004.10.29 04:16

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